今日は東京オフィスでミキシング・ラウドネスを中心としたセミナーを開催してます!
— 西尾周一郎@音楽使用権のAudiostock (@nishiocf) 2019年4月18日
講師はレコーディングエンジニアの柳 俊彰さん!私も勉強します。 pic.twitter.com/G3iSPYjWt8
先日、クレオフーガにてエンジニアさんによるセミナーがあり見に行ってきました。
その内容のうち「ステム・パラデータの用意の仕方」がほぼ全てのDTMerにとって非常にためになる話だったのでまとめました。
クレオフーガおよび登壇者の方々に上記テーマについての掲載許可をいただいたので書きます。
エンジニアさんが受け取るときに嬉しいフォーマットを知り、お互い気持ちよくやりとりができると良いですね。
ちなみに講師はレコーディング・エンジニア柳 俊彰さん。
何度もレコーディングやミックス・マスタリングでお世話になっています。
昨日はクレオフーガさん開催のセミナーでお話しさせて頂きました。
— Toshiaki Yanagi (@Yanagi_Engineer) 2019年4月19日
人前で話をするのは全然得意では無いのでどこまで伝わったかは分かりませんが、何か得て帰って頂けていたら嬉しいです。 https://t.co/TbYaQ7qbiC
はじめに:VUメーターを導入する
音量をチェックする際にあると見やすくて捗ります。
WavesのVU Meterやフリーのがいろいろあるのでこれをまず導入します。
マスタートラックの最終段に挿して使います。
ステムデータの作り方
ステムデータとは、レコーディングの際に使用する、楽器ごとにある程度トラックにまとめて書き出されたデータです。
作曲者が2MIXした状態のものからトラックをいくつかずつまとめてそれぞれ書き出します。
トラック数を減らすことでシステムへの負荷を減らし、特定の楽器群の音量の上げ下げを容易にし、スムーズなレコーディングを行う目的で作られます。
各ステムのレベルが0VU(-20dBFS〜16dBFS)程度になるように調整する
dBFSとは0dBFSを最大値として信号の大きさを表したものです。
0dBFSが最大値になるので通常表記はマイナスとなります。
まず各ステムのレベルを0VU(-20dBFS〜-16dBFS)付近を狙って作成します。
レコーディング用プロジェクト内ではそれらのステムのボリュームをフェーダーで調整し、マスタートラックに集まる曲全体を0VU付近になるようにしておくことで、レコーディング時に収録音が埋もれてしまったり、逆に音量が小さすぎて適切な音量で聞くためにS/Nの問題が発生するということを極力抑えることができます。
VUメーターを使ってチェックするとわかりやすい
ここで前述のVUメーターが活躍します。
まずVUメーターをマスタートラックのインサートの最終段に挿します。
間違ってマキシマイザーの前にVUメーターを挿したりすると正しい値が表示されないので注意しましょう。
次にUIの上あたりにあるReference Levelを-20dBFS~-16dBFS、あるいは指定されたdBFSの値に設定してください。
設定したdBFSの値が0VU(ゲージの黒色と赤色の中間位置)となります。
曲中で一番音量が大きくなるであろう箇所を流して0VU付近になるように曲の音量を調整してください。
ここまでできたら書き出しの準備です。
ロケーター位置は曲開始の2小節前から
現場で読み込んだ時に何もしなくても縦軸が合っているようにするため、中途半端な長さの空白にはせず2小節分の無音時間を曲の開始前に入れて、3小節目から曲が始まるようにしましょう。
またパラデータとステムデータの開始前の無音時間は同じほうが良いので統一しましょう。
あまり聞かないですが、DAWの小節にテンポシンクしたリズムループ音源などは無音時間を作るために曲をまとめてずらすとリズムが崩れるので、無音時間の長さを調整するか音源側でノートON時にサンプルスタートにするなどと設定できるようならしましょう。
これも現場によっては1小節前など指定が違うこともあるので柔軟に対応します。
楽器はいくつかにまとめて、トラック名は短く
DAWでトラック名を表示する領域は狭いので、ファイル名は分かる範囲で短くしましょう。
・Pf(ピアノ)
・Gt(ギター)
・Drum(ドラム)
・Bass(ベース)
など。()内は実際のトラックには書きません。
Cubaseユーザーは必ず「iXML チャンクを挿入」を外して書き出す
Cubaseでは書き出し時、デフォルトで「iXML チャンクを挿入」にチェックがついています。
これがついているとなぜかProtoolsでステレオデータを読み込んだときにL/Rでそれぞれ別々のモノラルデータとして読み込まれてしまうため、直すのが非常に面倒になります。
絶対に外しておきましょう。
繰り返します。
「iXML チャンクを挿入」を絶対に外しておきましょう。
音声フォーマットは基本wav(24bit/48kHz)
時代で変わるかもしれないですが、今のところの主流はwavの24bit/48kHzです。
指定があった場合はそちらに合わせて、特に何も言われなければ2448で良いと思います。
BPM情報も忘れずに用意する
曲中でテンポが変わる場合はBPM情報の入ったSMFデータ(MIDIファイル)を用意しましょう。
DAW上に空トラックのMIDIトラックを作り、MIDI書き出し時に「テンポマップをインポート」などのテンポに関わる箇所にチェックを入れて書き出せばOKです。
Cubaseの場合はチェックする場所が環境設定にもあるので注意。
http://yamaha.custhelp.com/app/answers/detail/a_id/2565
テンポが一定の場合はファイル名にBPMを記載したメモ帳をフォルダの中に入れておいても良いでしょう。
ついでに間違いのないように音声ファイルのフォーマットも記入しておけばバッチリ。
「120bpm,24bit,48kHz.txt」みたいに。
パラデータの作り方
パラデータとは、ミックスエンジニアさんに曲をミックスしてもらう際に作曲者からエンジニアさんへ渡すデータのことです。
1トラックずつバラバラに書き出してエンジニアさんが極力すべての楽器を自由に制御できるような状態にして渡す必要があります。
パラデータの前にマキシマイズしていない2mixを書き出す
エンジニアさんにパラデータをミックスしてもらう際に、作曲者が作った2mixを確認してもらうための音声ファイルを用意します。
音の細部を確認してもらうためにマキシマイザーをバイパスし、潰していない状態のものを送ると良いです。
パラデータの音量が小さめなのと、仮に音が多少小さくてもエンジニアさん側で大きくできるので気にしなくてOKです。
プロジェクトをコピーして別プロジェクトで作業する
後述する通り各トラックに対して色々手を加えるのでプロジェクトを別名で保存しバックアップをとり、新しいデータで作業しましょう。
何かのトラブルで作業の巻き戻しが発生したときにデータがぐちゃぐちゃだと困っちゃうので。
エフェクトは基本全部切る、パンもセンターに
リバーブ、コンプ、EQなど、極力すべてのエフェクトを切り、動かしていたパンもセンターに戻します。
エフェクトはバイパスではなく削除しましょう。Cubaseだとミキサー画面でトラックごとにインサートエフェクトを一括削除できるのでそういうのを活用すればすぐにできると思います。
もっぴーさうんどの環境だとバイパスしてもなんか変になるエフェクトがいくつかあり、以前にやらかしました。
音源に内蔵しているリバーブやディレイなども切っている状態が望ましいです。
オーケストラ音源だとサンプリングされた音声自体に残響を含んでいるものがありますが、そういうのはそのままでOKです。
こだわりのエフェクトはドライなトラックも用意する
また、これは絶対に外せない!というこだわりのセッティングが施されたトラックに関してはDry/Wetの2パターンをエンジニアさんに渡すと調整しやすくてありがたいそうです。
例として、ベースやエレキギターのアンプのありなし2パターンや、思い切りローカットして高音域だけ聞かせたいシンセ音と素の音の2パターンだったり。
各トラックのレベルが0VU程度になるように調整する
パラデータ作成時はトラックごとに0VU付近を狙って作成します。
これはアナログ機器やアナログ再現のエフェクトに音を通す際、このぐらいの音量で通したときに良い感じに動作するように想定されて作られているためで、パラデータの時点で予めそのくらいの音量にしておこうというわけです。
こちらもVUメーターを使ってチェック、調整しましょう。
制作現場やエンジニアさんによって基準値が違うので厳密な環境であれば作成前に確認しましょう。
ドラムなどをキットごとにトラックに分ける
キック、スネア、ハイハットなど、美味しい帯域がどれも違うので別々に分けたほうが処理しやすくなります。
BFDやAD2、SD3.0などのドラム音源であればパラアウトにも対応しているのでそれを活用すると比較的すぐに分けられます。やり方は調べればすぐに出てくると思います。
トラック名は短くわかりやすく
DAWでトラック名を表示する領域は狭いので、ファイル名は分かる範囲で短くしましょう。
・Kick(ドラムのキック)
・Hihat(ドラムのハイハット)
・Pf(ピアノ)
・Gt_L(ギターのL側)
・Gt_R(ギターのR側)
・Vn(バイオリン)
・Va(ビオラ)
・Bass(ベース)
など。()内の内容は実際のトラックには書きません。英字だけ。
エンジニアさんはミキサー画面で調整することが多いためトラック名の領域が超狭いです。4文字とか。なので見たらすぐわかるような名前にするとグッドです。
逆に頭文字に番号を振るとか曲名を入れるとかステム名を入れるとかすると取り込んだ時に名前がほとんどわからず、リネームしないといけなくなるので気をつけましょう。
ロケーター位置はステムデータと同じに
ステムデータと同じ位置、曲開始の2小節前などから書き出しましょう。
Cubaseユーザーは必ず「iXML チャンクを挿入」を外して書き出し
ステムデータと同じです。悲しい事件が起きる前に絶対にチェックを外しましょう。
音声フォーマットは基本wav(32bit float/48kHz)
時代で変わるかもしれないですが、今のところの主流はwavの32bit float/48kHzです。
処理する際に音が劣化しないよう、ビット数を「32bit float」にして書き出します。
32bit floatの詳しい説明はsleepfreaksさんのところがとてもわかりやすいです。
https://sleepfreaks-dtm.com/dtm-mix-technique/32bit-float/
BPM情報も忘れずに用意
ステムデータと同じく、曲中でテンポが変わる場合はBPM情報の入ったSMFデータ(MIDIファイル)を用意したり、メモ帳に記載しておくと良いでしょう。
書き出したらフォルダにまとめる
エンジニアさんが簡単に自身のツールに取り込んで作業ができるようにフォルダにまとめましょう。
まとめかたはステムデータと同じ考え方で、「Drum」「Bass」「Piano」などとフォルダを作り、その中に各音声ファイルを入れます。
こうすることで、まとまりごとに順序よくツールに取り込むことができ、スムーズにミックス作業に取りかかれます。
フォルダを分けないとどうなるかというとローマ字順に取り込むことになるので、取り込んでから1トラックずつ作業しやすい並び順に整理する必要があります。
10トラックくらいなら大した手間ではないですが、これが50とか100トラックになったら整理するだけでうんざりする作業量になるので作曲者側でまとめておくのが良いです。
ミックスの希望をテキストでまとめる
具体的な希望、乾いた質感のリバーブにしたいとかミックスに対して作曲者からお願いしたいことをまとめてフォルダの中に入れておきます。
テキストファイルだと文字化けすることもあるのでpdfにしておくと間違いがないです。
以上を踏まえてパラデータのフォルダを作成すると以下のような感じになります。
各フォルダの中にトラックの音声がそれぞれ入っている状態です。
終わりに
セミナーへ行ってみてこれまでのデータは色々やらかしていたなぁ…と冷や汗かきっぱなしでした。
作曲しているだけだとわからないことっていっぱいですね。
これを見た方が間違えてやらかさないように、エンジニアさん方と気持ち良くお仕事ができるようになったらいいですね。
作曲者のためのエンジニアさんにステム・パラデータを渡すときの仕様覚え書きでした。